2025.06.14
「問い」をつくる難しさと面白さ

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長井 悠
Yu Nagai
共同創業者・代表取締役
ラーニングデザイナー -

渡邉 慎也
Shinya Watanabe
ラーニングデザイナー
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オマリー 紗良
Sara O’Malley
英語教育開発推進部
原体験 〜「問い」に出会った瞬間〜
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渡邉
僕が「問い」の面白さを感じた最初の原体験は、小学4年生の授業でした。その時のテーマが「日本にはどれくらい方言があるのか」というものでした。先生が答えを求めていたわけではありませんが、そのとき僕はあらゆる方法で方言を調べていました。今振り返ると、誰かに「これをやりなさい」と言われるのではなく、自分の興味のままに探究して良いという「思考の余白」をもらえたことが、すごく自分にとっては問いと出会ったきっかけだったなと感じますね。
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長井
僕はデザイン思考のワークショップが問いの原体験かな。 私がまだ会社員をやっている時にデザイン思考が流行り始めていて「これは今後、教育にも広がってくるだろうな」と感じていた時に実際にそのワークショップに参加したんです。 その中にすごく印象に残っているのが「How can we〜?」という問いの立て方。たとえば「もっと便利な財布を作ろう」ではなく、「私たちはどのようにすれば、手が不自由な人でも簡単に開け閉めできる財布を作れるか?」と問いを立てる。問いの投げ方ひとつで、場全体が「できる前提」でアイデアを広げていく空気になるんですよね。 その時に「問いは人の思考の向きをつくる力があるんだ」と実感しました。場を動かしたり、人を動かしたりする力が問いにはある。これが自分にとっての問いの入り口だった気がします。
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オマリー
私は小さい頃から、周りの人に比べるとちょっと「なんで?」という問いが多い子どもだったみたいです。キリスト教の教育を受けて育ったんですけど「なんでこれをやるんだろう?」と疑問を持っていたらしくて。 世の中のいろんな「当たり前」に対して自然と「これは本当に正しいの?」「なんでこうなっているの?」と考えるクセがずっとありました。親は、私が信仰に対して違う意見を持ち始めた時は少し複雑な感情もあったと思いますが、それでも「それは面白いね」「自分で調べたんだね、すごいね」と肯定的に受け止めてくれたのには本当に感謝しています。 今でも、政治にしても心理学にしても、すべてに対して「なぜ?」「どうして?」と考え続けているので、私にとって問いは常に身近にあるものなんだと思います。
問いに対する考え方
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長井
問いには、大きな問いから小さな問いまでいろんな種類があると思っています。タクトピアの中で一番大きな問いは「研修のミッション」だと思っていて、プログラム全体が「今回私たちは何に挑戦するのか?」という問いに基づいて設計されています。一方で、生徒が迷っている時に「今どんなことに悩んでる?」と聞くのも、すごく日常的な問いの一つですよね。結局、日々のあらゆるシーンに問いは散りばめられているんだと思います。
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オマリー
私は、生徒に問いを投げかけるときに一番大事にしているのが 「バカにしないこと」「子ども扱いしないこと」 です。たとえば「Oh what do you think?」みたいに軽く聞くのではなく、中学生であっても大人と同じように、「私はあなたの意見が知りたいよ」という姿勢で問いかけるようにしています。 たとえばリンガーハッカーズのプログラムでは、日本を紹介するプロジェクトをやる時も「What's so cool about Japan?」ではなく「なんであなたは日本が好きなの?」「どんなところに誇りを持っているの?」と問いかけます。 子どもたちが自分の意見をきちんと持ち、自由に表現できる環境をつくること。それが問いを投げる側の役割だと思っています。
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渡邉
ラーニングデザインの中で問いを考えるとき、大事にしているのは「その人の考えや感じ方が自然とにじみ出る問いになっているかどうか」なんです。 例えば授業やプログラムでは「メインの問い(大きな問い)」があって、それを深めていくために小さな問いかけを積み重ねていきます。 たとえば「動物園って必要だと思いますか?」という問いでも、表面上は「はい」か「いいえ」で答えられるシンプルな問いですよね。でも、実はその一言の裏には「なぜそう思うのか?」という背景や価値観が必ずあるはずです。 ラーニングデザインでは、こうした「答えやすいけれど、相手の考え方がにじみ出る問い」を意識して設計しています。問いの立て方次第で、自分を含め場にいる全員が「こう考えているんだな」と自然に理解を深めていける。そうした問いを丁寧に作ることが重要な仕事だと感じています。
問いを設計する時に大事なこと
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オマリー
私は問いを考えるときに、いきなり難しい問いを投げないように意識しています。リンガーハッカーズの授業では「CLIL(内容言語統合型学習)」を取り入れていて、その中に「LOTS(Lower-Order Thinking Skills:基本的な認知スキル)」と「HOTS(Higher-Order Thinking Skills:高度な思考スキル)」という問いのレベル分けの考え方があります。 たとえば最初は「LOTS」として、「動物の名前を10個挙げてみよう」とか「動物園に行ったことある?」といったシンプルな事実確認の問いから始めます。こうした問いは、生徒が安心して答えられる「引き出し」を準備していく段階です。 そこから少しずつ「HOTS」の問いに進めていきます。「動物園はなくすべきだと思う?」といった問いでは、自分の意見や価値観を表現する必要が出てきます。でも、いきなりこうした問いを投げると、生徒は「え、なんで?」と戸惑ってしまいます。前提や背景がわからないと、自分の意見が出せなくなってしまうんです。 だからこそ、生徒たちが自信を持って意見を言えるようになるためには、段階的な準備と事前の問いの積み重ねがとても大事になります。LOTSのような小さな問いから丁寧に導くことで、生徒たちも「意外と自分の意見がスラスラ出せるんだ」と感じられるようになる。生徒からすると「どうでもいい質問」と思われているかもしれませんが、実は全部が大切なプロセスなんです。
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長井
その観点はすばらしい。要はレベルが高い問いを作ることがラーニングデザインではなく、答えやすいところから始まってだんだん核心に近づいていくみたいな、そういう問いの設定もありますね。
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渡邉
さらが話してくれたCLILのように、問いには段階的に積み上げていく設計がある一方で、ラーニングデザイン全体で考えると「問いは環境づくりそのものに深く関わっている」と僕は捉えています。ただ、問いというのは必ずしも「出せばいい」というものではなくて、使い方を間違えれば場を壊してしまうこともあります。たとえば一斉授業の最中に突然「それって本当に正しいんですか?」と疑うような問いを投げると、授業の流れを妨げるかもしれない。グループワーク中も、批判的すぎる問いは時に関係性を悪くしてしまう。問いは「探究」や「批判」など様々な側面を持っているので、文脈によって使い分けが必要なんです。だからこそラーニングデザインでは、「どんなタイミングで、どんな問いを、どんな雰囲気の中で投げるのか」まで含めて問いを設計しています。ただ問いを考えるだけじゃなくて、問いを活かせる環境をどうつくるか。それこそが、僕たちが現場で大切にしている設計のポイントだと思っています。
問いの難しさと責任
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長井
やっぱり問いをするのは難しいところもあるなと感じます。特に僕が感じるのは、場の雰囲気を切り替えたい時にどんな問いを投げかけるか。たとえば盛り上げたい場なのか、落ち着いた場にするかによって、問いの言葉選びは全然変わってきます。問いにはそういう「場の空気を作る力」がある分、コントロールが難しいとも感じますね。
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渡邉
僕は問いには常に「責任」が伴うと思っています。問いを投げるという行為には、必ず相手に何らかの反応や思考を促す意図がある。だからこそ、その問いが相手にとってプレッシャーになったり、追い詰めるものになってしまうリスクもある。 たとえば「これ何がいけないのかな?」という問いは、一見ただの確認のように見えても、状況によっては責められているように感じさせてしまうこともあるんです。 だからこそ問いを投げる側は「なぜその問いをするのか」という背景や責任を持つ必要があると思うんです。それが問いと向き合い続ける難しさでもあり、楽しさだと思います。
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長井
まさに「問いには責任がある」というのは本当にそうで。だからこそ僕たちが日々やっている「ミッション設計」も簡単ではありません。たとえばタクトピアのプログラムでは、先生たちと事前に何度も議論を重ねて「このプログラム全体で何を問いかけたいのか」を明確に言葉にしていきます。言葉の表現ひとつで参加する先生や生徒の結束力も大きく変わってしまうから、細かい表現まで一緒に考え抜くんです。 問いを立てるプロセス自体が、一つの「場づくり」でもある。そうやって丁寧に作った問いは、その後のプログラム全体の支えにもなっていくし、関わる人たち全員がその問いを軸に進めていける。問いを作る難しさはあるけれど、だからこそ問いには大きな意味と重みがあると思います。
問いの「導く力」とつくる面白さ
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渡邉
僕たちはプログラム設計の中で「立ち戻る問い」を大事にしています。問いがあることで、迷った時にも「自分たちは何に挑戦しているのか」を思い出せる。問いが場の"コンパス"になってくれるんです。問いがしっかり立っていると、同じテーマでも毎回違う議論が生まれるのも面白いところですね。
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オマリー
生徒たちも問いによってすごく変わるんですよね。最初に「これからこういう問いについて考えていくよ」とゴールを共有しておくと、生徒たちの安心感も高まるし、途中で迷っても「自分がどこに向かっているのか」がちゃんとわかるようになります。それに、生徒自身が「最初は答えられなかったけど、途中でいろいろ考えたら意見が出せるようになった」という成長を実感できる。その変化を見るたびに、問いってやっぱり「試すもの」じゃなくて「成長を助けるもの」だなと思います。問いの力って、そうやって人の中に少しずつ積み重なっていくものなんだと思います。
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長井
結局、僕らも同じで。問いを考えるって、やればやるほどまた新しい問いが出てくるし、僕たち自身も学び続けるサイクルに入っていくんですよね。問いは「生命活動」という僕のメタファーにもつながるんですが、違う価値観や視点を取り入れながらどんどん自分の世界が広がっていく。問いを作る仕事って、そういう面白さがあるからずっと飽きないんだろうなと思います。


